呼吸器内科医への道

呼吸器内科医を目指す研修医のブログです。勉強したこと、日々の出来事について更新していきます。誤記載などありましたら修正していただけると嬉しいです。

ABPAにおけるICTZ vs PSL

A randomized trial of itraconazole versus prednisolone in acute-stage ABPA complicating asthma

http://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(18)30077-1/fulltext

 

ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)はアスペルギルス属に反応して誘発されるアレルギー性疾患で、診断基準は下記のRosenbergの基準に基づいて行われます。

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一次所見:

気管支喘息の既往がある

②末梢血好酸球増多

③アスペルギルス抗原に対する即時型皮膚反応陽性

④アスペルギルス沈降抗体陽性

⑤血清IgE濃度上昇

⑥胸部単純写真で、肺浸潤影

⑦中枢性気管支拡張

二次所見:

①喀痰検体の染色・培養におけるアスペルギルス属の反復検出

②褐色栓子の喀出歴

③ ア スペルギルス GM 抗原に対する Arthus 型反応(遅発性皮膚反応)

※一次基準の 7 項目をすべて満たすと ABPA の診断が確実で、6 項目であればほぼ確実、さらに二次基準を満たせば確実性が増す。 

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一方で、気管支喘息のないABPAもあるということも念頭に置いておきたいです。

治療の基本はステロイドですが、ステロイドは気道の攣縮と好酸球性の気道炎症を軽減してくれる効果があり、一般的には0.5mg/kg/dayで開始するようです。

 

抗真菌薬の併用に関しては、抗真菌薬の併用に関する二重盲検ランダム化プラセボ比較試験の 2 試験において、 ITCZ(200 mg/回 1 日 2 回、16 週間の経口投与)は ステロイド投与量の低減や投与間隔の拡大、好酸球性炎症パラメータ、IgE 濃度、さらに運動耐容能および 肺機能の改善効果が認められたとの報告があります。

 

今回は、ステロイドとITCZの単剤投与によるABPAの急性期治療における比較試験で、単施設におけるrandomized trialになります。

 

primary outcome:IgEの低下率、再発の頻度、薬剤への反応性

secondry outcome:治療後の肺機能、副作用など

 

Results:177症例のうち44症例が除外され131症例がそれぞれITCZ群とPSL群に振り分けられ、平均年齢は37歳で男性は53%であった。

ITCZ群に比較してPSL使用群で優位に薬剤への反応が認められた。しかし、IgEの減少率と増悪までの期間、再発のリスクは両群で変化なかった。副作用に関しては、体重上昇などの副作用がステロイド使用例で優位に多かった。

Conclusion:

ステロイドは急性期のABPAにおいては症状改善に効果があると考えられるが、ITCZも症状改善にある程度効果があり、副作用が少ないことを考えるとステロイドの代替薬と成り得るかもしれない。

Limitation:単施設における試験で、盲検化されていないので、ある程度のバイアスはかかっている。

 

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肺膿瘍の治療中にどのタイミングで経口治療にスイッチするか?

肺膿瘍で加療中の若い男性の担当をしていますが、アンピシリン・スルバクタムで治療経過は良好で、特に免疫不全の背景疾患はありません。職務の都合もあり、なかなか長期入院できないので、いつのタイミングで経口内服に切り替えて外来治療を検討するか検査してみました。

 

肺膿瘍は、慢性基礎疾患が背景にある患者にできやすく、リスク因子としては

糖尿病、アルコール依存症免疫抑制剤使用、HIV感染症、あるいは誤嚥などがある。

 

起因菌は口腔内の常在菌や嫌気性菌が多く、東南アジアではBurkholdelia pseudomalleliというメリオイドーシスの原因菌によっても、肺膿瘍は起こります。

Empiric therapyは上記の原因菌をカバーするものとして、ABPC/SBTやカルバペネム系を推奨されており、ペニシリンアレルギーがある患者の場合はクリンダマイシンも良い選択肢の一つとなります。

メトロにダゾールを採用する場合は嫌気性菌のカバーは可能ですが、GPCのカバーが弱いので、併用する方が治療失敗は少ないので併用療法が推奨されています。

 

Up to dateだと下記のように記載されており、特に傾向へのスイッチは記載されておりません。

Duration and switch to oral therapy — The duration of therapy is controversial. Some treat for three weeks as a standard and others treat based upon the response. Our practice is to continue antibiotic treatment until the chest radiograph shows a small, stable residual lesion or is clear. This generally requires several months of treatment, most of which can be accomplished with an oral regimen on an outpatient basis. Appropriate oral regimens will depend upon the infecting pathogen. For patients with a mixed anaerobic and streptococcal infection, amoxicillin-clavulanate is an appropriate regimen [56], but the choice of regimen should be guided by susceptibility results when available.

There has also been interest in using moxifloxacin because early studies showed good in vitro activity against anaerobes, and a small trial has shown benefit for aspiration pneumonia and primary lung abscess [57]. However, moxifloxacin has not been studied adequately to recommend it as a first-line agent for lung abscess, and the rate of resistance of anaerobes to this drug is increasing [58].

The rationale for extended treatment is the anecdotal experience with five patients who relapsed after therapy was discontinued despite receipt of antibiotics for more than eight weeks [59].

 

2015年に発表されたギリシャのReviewによると臨床症状が改善するまで5−21日間は点滴で加療し、その後は経口に切り替えてtotalで28−48日間治療すると記載されています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4543327/

 

The duration of antibiotics therapy depends on the clinical and radiographic response of the patient. Antibiotics therapy should last at least until fever, putrid sputum and abscess fluid have resolved, usually between 5-21 days for intravenous application of antibiotics and then per oral application, in total from 28 to 48 days () with periodically radiographic and laboratory controls. Effects of antibiotic therapy on radiographic finding of lung abscess (Figure 7A-C).

 

結局は臨床症状と画像で良くなれば最低限3週間の点滴治療はしてその後経口に切り替えるということでしょうか。まだ治療経験が浅いので、悩ましいところです。

 

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インフルエンザの迅速検査はいつやるか?

インフルエンザの流行が続いています。

国立感染症研究所の報告によると、定点当たりの報告数は増加傾向だそうです。

以下国立感染症研究所のHPから引用します。

2017年第51週の定点当たり報告数は12.87(患者報告数63,774)となり、前週の定点当たり報告数7.40よりも増加した。
 都道府県別では宮崎県(26.03)、長崎県(25.57)、岡山県(25.19)、山口県(22.22)、大分県(20.95)、広島県(20.60)、福岡県(20.42)、長野県(20.08)、愛媛県(20.08)、埼玉県(19.57)、沖縄県(18.43)、熊本県(17.28)、佐賀県(15.95)、鹿児島県(14.76)、静岡県(13.99)、東京都(13.93)、滋賀県(13.72)、千葉県(13.01)の順となっている。全47都道府県で前週の報告数よりも増加がみられた

 

入院は1〜9歳で177例、80歳、90歳代で80〜120例とやはり小児と高齢者で多くなるようです。

 

当院でも発熱と感冒症状、筋肉痛などを主訴に、よく「インフルエンザの検査をしてください」と言って来られる方がたくさん、たくさんいらっしゃいます。

医師はこの時期になるとインフルエンザの迅速検査をなんどもやることになると思いますが、果たしてこの検査を持ってインフルエンザである・ないを診断して良いのでしょうか。

 

迅速検査の感度はmeta-analysisによれば60%程度、特異度は98%だそうです。これは特に成人で感度は低く出る傾向にあり、別のmeta解析によれば感度は50%くらいしかなかったようです。この結果を見るとインフルエンザを疑って迅速検査をしても陰性だった場合、本当にインフルエンザではないかと言われたら、断定できませんね。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=22371850

 

現時点ではRT−PCRが一番感度も特異度も高いのですが、当日の外来で結果が出るわけではないし、現実的には迅速検査が最も手っ取り早いのかと思います。

 

ちなみにインフルエンザだからと言って、前例に抗インフルエンザ薬を処方するわけれはありません。基礎疾患のある患者、合併症を引き起こした場合は投薬することが多いです。

インフルエンザ迅速検査をやってください→陰性でした→インフルエンザではない?じゃあ対症療法で という流れではいたずらに迅速検査がやられっぱなしになるままではないかと思います。

 

やはり接触歴の有無と臨床症状でインフルエンザの診断をするべきで、何も基礎疾患がなくリスクが少ない人では対症療法で良いのであれば、迅速検査をしなくても良いと思います。

 

では、いつ迅速検査をやれば良いのでしょう?

基礎疾患があって、よく分からない発熱を主訴に来院して、もし迅速検査が陽性になってoutcomeが変わるようだったら、迅速検査の意味もあると思います。

 

USMLE Step1

私は呼吸器内科志望ですが、学生の時にふと思い立ってUSMLEの受験を志した時期がありました。当時、USMLEを受験することが一部の学生で流行していた(みんな海外に行きたかった?)ので、始めたUSMLEの勉強ですが、始めた手前なかなか止められず、結局Step1のみ受験しました。

結果的には合格したのですが、今思うと非常に時間と労力がかかり、良く続けられたなと本当に痛感します。

 

なぜみんなUSMLE受験に躍起になるかというと、今のままではこれまでのように、米国での臨床留学ができなくなるからです。2023年以降、米国・世界の標準基準を満たさない教育機関を卒業したものは、米国医師国家試験の受験資格がなくなります。これをいわゆる2023年問題と言います(つまりあと5年後ですね)。

 

留学する、しないは個人の自由ですが、もし可能であるならば、留学して得たものを自国の日本に持ち帰って欲しいものです。

 

USMLEの勉強スケジュールはこんな感じでした。

医学部3年生:教授に勧められた「Robbins」という病理学の問題集を解き始める。

      臨床医学が理解できず、全く解けない。

医学部4年生:USMLE Step1 First Aidを購入。少しずつ読み進めていくのと一緒にQ&Aを進める。

医学部5年生:実習の合間にFirst Aidを読みつつ、終わったらonlineの問題集を解く。1日40問くらいを目安に3周する。

医学部6年生春:受験。御茶ノ水ソラシティで周りがTOEFLのspeakingのセッションでめちゃくちゃ話していて集中できずに終わる。

→無事に合格できました。

 

研修医になってからはCKの勉強をしようと思った時もありましたが、今は日本で臨床をしっかり勉強したいと思っているので、米国の臨床留学は考えていません。もし呼吸器内科の先生で、米国やその他の国で臨床留学された先生がいらっしゃったらそのメリットや良かったことをぜひ教えて欲しいな、と思います。

 

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ポーランド症候群

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今月のNEJMのClinical Imageに掲載されていました。

片側の大胸筋の全欠損あるいは部分欠損+同側の指の合指症を伴う先天性疾患

 

頻度は2万〜5万人に1人で、家族性は1%以下である。

通常は片側性で、右側に60%程度である。孤発例では男性が多い。

 

原因は、胸壁から生じる上肢芽がまだ分化発達する時期である妊娠6週終わりで血流障害が起こり、結果的に鎖骨下動脈やその分枝動脈の血流低下が起こり、低形成・無形成が起こる。

 

臨床的に重要なのが、稀であるが、白血病非ホジキンリンパ腫、肺癌、乳癌などの悪性疾患のリスクが上がることである。

レジオネラ肺炎

レジオネラ肺炎を疑う人が来たのでまとめます

 

【レジオネラ症】

病原体:Legionella pneumophilaを代表とするLegionella属の細菌

    好気性のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌 細胞内増殖菌

   菌は1属41種に分類されている 

感染経路:環境中のエアロゾルや土埃の吸入による経気道感染

潜伏期間:2−10日間(平均4−5日間)

 

もともとは1976年にPhiladelphiaのホテルで在郷軍人の集会があり原因不明の肺炎が集団発生し、それを契機に発見された最近です。Legionellla属の死菌を吸入することによって急性発症のインフルエンザ様の症状が出るポンティアック熱というのもあります。

日本では1981年に初めて報告されました。

 

24時間風呂が有名ですが、これは24時間風呂だと40度程度の加温までしかしないので、レジオネラ菌が死滅せず増殖しやすい最適な環境だからです。

 

検査所見:レジオネラは採血や症状で特異的な所見があります。

Can Legionnaires disease be diagnosed by clinical criteria? A critical review. - PubMed - NCBI

・消化器症状ー下痢

・神経学的所見ー意識障害

・39度以上の発熱

グラム染色で白血球は多いが明らかな菌を指摘できない

・低Na血症、低P血症

・肝機能異常

・血尿

慢性肺疾患が背景にある人、喫煙者はLegionella症発症のリスクが高いと言われています。

 

【診断】

培養:BCYEα寒天培地 普通の培地では培養されないので、選択培地を用いる。初代分離には3日以上要する。重要な検査ではあるがなかなか培養するのが難しい。

染色:ヒメネス染色、鍍銀染色

遺伝子診断:PCR DNA-probe法

尿中抗原:起因菌の80%をしめると言われている血清1型を検出。感度は文献によってまちまちであるが、概ね感度80%、特異度80−90%

実際に当院で培養されたLegionellaの培地です。

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治療:ニューキノロン系またはマクロライド

例:レボフロキサシン500mg1日1回10−14日間または750mg1日1回5日間

ニューキノロンvsマクロライドのRCTはないが、どちらも死亡率と入院期間は変わらない。併用療法で改善した症例もあるが、単剤vs併用を調べたものはない

https://watermark.silverchair.com/civ157.pdf?token=AQECAHi208BE49Ooan9kkhW_Ercy7Dm3ZL_9Cf3qfKAc485ysgAAAaEwggGdBgkqhkiG9w0BBwagggGOMIIBigIBADCCAYMGCSqGSIb3DQEHATAeBglghkgBZQMEAS4wEQQMLU8nxef9KPLSoVcsAgEQgIIBVIaWpF4SBy5r5GfnLcAkLK0Ydg0DuNBNAoJ-ESwDBtgIWoyPDmUrgvxYnrDJDQ6tHeGhEhcLaHh_GZ2P5z11YroWaihwM4ZEQ2lKoa3cS_Z0hzyF6HMmw1Wn_UOopRtRiq1t7Q1s0BVLJmBF5YZZ8jIcir5fxXKuxNsR3UeBodwOlhgBpnsgG-6ud7KMX81NA5Nd5b25RiZUg9tPCkB3FRVaG5CQg7V0gGp-0gC2DI9y2YpSqeeb-WQ37veAzUq9PPAD1FWAnmT5CpKyhq5ZgGST0z9oRa33k3SBYM22bT0GlXfjy0zSau4prnPmlsD0oV6lB-o-pQaGnd3NH5mQG6kidupe7DP7kyADlg9hYPt-cxI9-iDw6NlLGUjoyjfRQlI_2y-ALSq75p2MF86pOsLFSpeJh2S3Dca_5eu0pFfhY4L0oHzvLt_mWUddmIZVS-tHDrY

The effect of alcohol consumption on the risk of ARDS CHEST

新年早々、COPD増悪の患者さんがたくさん入院されました。

GOLDのガイドラインを改めて読み直さなければいけないと思う今日この頃です。

 

The effect of alcohol consumption on the risk of ARDS

http://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(17)33280-4/fulltext

アルコールの消費量とARDS発症リスクの相関をmeta-analysisで調べた論文です

 

Background:もともとARDSは何らかの呼吸器関連疾患を発症した7日以内に出現するびまん性の肺障害であり、ICU入室患者の10.4%が発症しその内の23%が人工呼吸器装着が必要といわれている。また、ARDSの死亡率は44%といわれており、これは1994年頃から変わっていない。アルコールもARDS発症のリスクといわれており、アルコールによる肺胞上皮細胞の障害と肺胞マクロファージの機能低下で、宿主の免疫機構を抑制し肺炎を起こしやすくする。

 

Methods:

Medline,EMBASE,Web on Scienceで1985年から2015年までの観察研究を言語に問わずピックアップし、調査した。

 

Results:

17の観察研究(total 177674人)が本調査で調べられ、ほぼ全ての研究においてアルコール摂取によりARDS発症のリスクは増加するという結果であった。(OR=1.89, 95% CI: 1.45-2.48, I2 =48%, 13 studies); 

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Conclusion:

飲酒はARDSのリスクを上昇させるリスクファクターになるので、入院患者は慢性的なアルコール摂取がないかどうかをスクリーニングする必要性があるかもしれない。